こんにちは、kaku-kaku lab.です。今年も、板橋区立美術館で開催中の『2015ボローニャ国際絵本原画展(あさって、8月16日(日)まで開催しています!)』に行ってきました。毎年楽しみにしている絵本の原画展です。さっそく当日の様子をレポートしてみたいと思います。
ボローニャ国際絵本原画展とは
イタリアの古都ボローニャでは、毎春、児童書専門の見本市「ボローニャ・ブックフェア」が開催されます。そこは、版権を売買するだけでなく、児童書の新たな企画を生み出す場として、世界中から多くの人が集まります。
1967年、このブックフェアにともなうイベントとして、「ボローニャ国際絵本原画展」は始まりました。子どもの本のために描かれた作品(5枚一組)であ れば誰でも応募できることから、新人イラストレーターの登竜門としても知られ、本展をきっかけに多くの絵本作家が生まれています。
本展の魅力は、実験的な試みを積極的に受け入れ、多様な絵本表現が見られることです。世界中から集まる多数の応募作品は、有名作家の作品も新人作家の作品も同じテーブルに並べられ審査されます。国籍の異なる5人の審査員は、毎年入れ替わります。板橋区立美術館HPより引用
今回は地下鉄成増駅からバスで美術館へ向かいました。住宅街をバスに揺られ、だいたい10分ほどで美術館に着きました。同じバスには、美術館に向かう他のお客さんが何組も同乗していたようで、たくさんの人がバス停「区立美術館」で降車していて、なんだか嬉しくなってしまいました。
東武東上線「成増駅」北口2番のりばより「(増17)美術館経由 高島平操車場」行き「区立美術館」下車
※他のアクセス方法もありますので、詳しくは板橋区立美術館HPアクセスページよりご確認ください。バスの時刻表も掲載しています。
ボローニャ国際絵本原画展は、世界でも最大級の規模を誇る絵本原画コンクールとして知られ、1967年より毎年開催されている展覧会です。
49回目となる今年2015年は、世界約60カ国から3,000人ほどの作家が参加し、15,000にも及ぶ作品が審査されました。毎年変わる5人の審査員によって、今年は24ヵ国76作家が入選となりました。日本からは10作家が入選しています。板橋区立美術館では1981年から毎年、全入選作品が展示されています。
毎年足を運んでいると、年毎に展覧会全体の雰囲気の違いを感じるのですが、今回はまたずいぶんと特徴的だと感じました。このことについては、後半のインタビューで触れていますのでそちらをご覧ください。
今年の見どころのひとつに、板橋区とボローニャ市の友好都市10周年記念のパネル展示があります。「ボローニャという名前だけは聞いたことがあっても、いったいどんな街なのか実はよく知らない!」という私たちのような人のために、三浦太郎さんとアニェーゼ・バルッツィさん、2人のイラストレータによる記念イラストと、わかりやすい解説パネルが展示されているので必見です。
このボローニャの解説は毎年設けてほしいなと思い、学芸員の高木さんにお願いしたところ、「原画の展示スペースが少なくなってしまい配置がとても大変だった」とか…。内容の濃い展覧会ならではの悩みですね。
※ボローニャについてのパネル展示は板橋区立美術館のみとなります。
今年は、展示室3部屋にわたるコンクールの入選作品と特別展示のほかに、板橋区とボローニャの友好都市10周年記念の展示で構成されています。
今年の特別展示は、ゲートや階段絵にもなっている、カタリーナ・ソブラルさんの新作を含めた5作品の原画と絵本の展示です。
カタリーナ・ソブラルさんは、去年のイエラ・マリ展のなかの「字のない絵本」の展示コーナーで、最も気になった作品「からっぽさん」の作家さんだったので、私たちは狂喜して、原画に穴をあけるほど見入ってしまいました。
「Catarina Sobral」という名前だけではわからなかった「からっぽさん」以外の作品や、ご本人のプロフィールや写真なども知ることが出来たので、これから先も注目していきたいと思います。
カタリーナ・ソブラルさんは2015年、ボローニャSM出版賞(※)を受賞しました。今回は「人魚と恋をした巨人たち」「からっぽさん」「ストライキ」「アシンパ」「ぼくのおじいちゃん」の原画と絵本が展示されています。原画ならではの、配色の鮮やかさや、生々しいタッチ、いきいきとした表情に魅了されつつも、絵本というプロダクトとしてのかわいさにもワクワクしてしまいました。
※ボローニャSM出版賞とは、35才以下のボローニャ展入選者を対象に送られる賞。受賞者には賞金とSM出版から絵本を出版する権利、さらには翌年のブックフェアで展覧会を開催する権利が与えられます。
ポーランドの詩人ユリアン・トゥヴィムの詩「蒸気機関車」他に着想を得て制作された作品とのことです。絵本は、一枚ずつめくる一般的な絵本のスタイルではなく、蛇腹に折られた一枚の長い紙に、機関車の車両がずっと続き、一本の機関車になっています。
時勢のせいか、兵隊さんや武器、戦車のページに目がいってしまいますが、とにかく何匹いるのか分からない整然と並ぶウサギや、樹木や動物たちの美しさにも魅了されてしまいます。モノトーンの作品が、へらへら笑っていられない、なにか物々しい雰囲気と、凛とした美しさを感じさせてくれます。(詩を紹介しているホームページ)
少年が大きく口をあけた中に、森のトラが顔をのぞかせているページに引き寄せられてみると、思春期の少女の瞳に映る森に吸い込まれそうになり見入ってしまいました。まっすぐ正面を見つめる少年と違い、斜に構えたというか、いったい何を想っているのか、彼女の思考に寄り添いたい欲求が湧いてきて、ついついずっと考えてしまいます。
余談ですが、展示されていた少年の瞳には森がありましたが、ホームページで公開されている作品では、少年の瞳は、紙の白になっています。作者の思想に想いを馳せてしまいました。みなさんは、どちらのバージョンが好きですか?(作家さんのホームページ)
近年は、非ヨーロッパ圏の作品が増えていて、その中でもアジアの作家さんの作品が目立っていました。中でも一番引きつけられた作品がこの「プラスチック島」です。
プラスティック島、ゴミで出来た島。むかし見た東京、夢の島の光景がフラッシュバックしました。色とりどりのに光り輝くものの集合体。でもよく見るとゴミで出来た島。絵をじっくり見ていると、とても綺麗で、まさかゴミとは思えない美しさがあります。絵本と言えば、楽しい、かわいい、などを連想しますが、それだけではない、真実を包み隠さずに、子どもたちに見せるという作家さんや審査員の姿勢を感じた作品でした。
今回なぜか多かったのがクジラが登場する作品で、白鯨をモチーフにした作品が二つ、クジラが登場する作品がひとつ、クジラかな?という作品がひとつありました。
クジラが登場する作品の中でも、特に荒々しい作風で気になった作品です。もしかしてと思い作者を確認してみると、昨年気になった作品として取り上げさせてもらった作者さんでした。いろんな画材を使って描かれています。水彩、鉛筆、油彩、アクリルなど、あと墨も使われていたり。独特な作風で今年も気になって見入ってしまいました。
時間が経つのを忘れて会場を観てまわったあとは、今年も学芸員の高木さんにインタビューをさせていただきました。
──毎年雰囲気がかわりますね。今年は、はじめて来た2011年のときと雰囲気が近いように感じましたが、なぜだかはよくわかりませんでした。なにか毎年の傾向などあるのですか?
「毎年審査員がかわるので、その年の展覧会の雰囲気を決めるのは、審査員がどのような視点で作品を選びだしたのかに関わってくるのだと思います。今年の審査員がどのように作品を選んでいったのか、詳しくは図録に掲載されているインタビューをご覧いただきたいのですが、例えば審査員のひとりは世の中で現実に起こっているさまざまなことを、絵本のテーマとして取り上げるべきだと言っています」
──日本、韓国勢は毎年たくさんの作家さんが入選していますが、今年は台湾や中国の方が目立つように感じられました。今年の傾向はどのように感じていらっしゃいますか?
「韓国はここ10年で勢いを増してきて、今年は10作品が入選しています。日本も今年は10作品が入選しています。台湾、中国もそうですが、南米も勢いがあります。ヨーロッパで開催されているコンクールですが、入選作品の半分が非ヨーロッパ圏の作家さんによるものです。各地でこどもの本が注目されてきているのかもしれません」
──ディケンズの「大いなる遺産」や「白鯨」など、文学がモチーフになっている作品がいくつかありましたが、特に課題があったわけではありませんよね?
「偶然だと思いますが、白鯨をテーマにした作家のひとりは92年生まれの21歳ですし、若い作家もこうしたチャレンジをしているのですね」
──カタリーナ・ソブラルさんのように、伝説をモチーフにしている作家さんもいますね?イラストを描くのに集中できたりするのでしょうか?
「カタリーナ・ソブラルの『人魚と恋をした巨人たち』はポルトガル南部の伝説をもとにアレンジしたお話ですが、他の作品はまったく彼女のオリジナルのお話です。本人は、イラストレーションを描くためにお話も作っていると言いますが、いずれのストーリーも大変ユニークです」
──フィクションやノンフィクションという分類は以前からされていたでしょうか?昨年は、かがくの絵本のような作品が印象に残っていますが、今年はノンフィクションとフィクションの境界がどこにあるのかなと感じました。
「この分類は以前からのもので、コンクールに出品する際に作家さんが自分で選ぶものです。絵本にはフィクションもノンフィクションも大事だという考えからこうした分類がされていますが、ノンフィクションの作品でも物語性を感じさせるものも多いと思います」
──日本は、ここ板橋での展覧会などの巡業展があるので、毎年たくさん入選作品を輩出していますね。この展覧会の影響力が感じられます。
「板橋よりも西宮の方が長く展覧会を続けています。そのためか、毎年関西からの入選作品がたくさんあります」
このあと、兵庫県西宮市大谷記念美術館(8/22~9/27)、愛知県高浜市やきものの里かわら美術館(10/3~11/1)、石川県七尾美術館(11/6~12/13)と巡回していく予定とのことです。たくさんの子どもたちの創作意欲を刺激して、未来の作家さんが足を運んでくれるといいですね。
今年の展覧会は、観ていてガツンと心に響くような作品が多かったように感じました。戦争のこと、環境のこと、心のこと、人との関係のこと、自分の内面のこと、きっと、毎年テーマになっているのでしょうけれど、なんだか今回の展覧会では、それぞれを突き付けられたように感じました。
審査員のひとりは、大人(絵本を購入する人)も、こどもと一緒に絵本を読むように教育することが重要だと考えていたそうで、こどもが好きなものだけを与えるのではなく、さまざまな話題の糸口になるような、限定的にならない絵本を作ることが大切だとインタビューで語っていたそうです。
毎年変わる展覧会の雰囲気を楽しみながら、原画の迫力に圧倒されに、ぜひ足を運んでみてください。新しい表現、新しい視点、懐かしい物語、色々な刺激でいっぱいで、大人もこどもも一緒に楽しめる展覧会です。あさって8月16日(日)までの開催です!
今年は、中央の展示室にボローニャというまちがどんなところなのかがわかるパネル展示もあるので、ボローニャが身近に感じられます!()
〈レポート:kaku-kaku lab.(カクカク・ラボ:鹿毛泰成/国重安沙)
【このあとの巡回予定】
板橋区立美術館(東京) 2015年7月4日~8月16日
http://www.itabashiartmuseum.jp
西宮市大谷記念美術館(兵庫) 2015年8月22日~9月27日
http://otanimuseum.jp/home
高浜市やきものの里かわら美術館(愛知) 2015年10月3日~11月1日
http://www.takahama-kawara-museum.com
石川県七尾美術館(石川) 2015年11月6日~12月13日
http://nanao-art-museum.jp
日本巡回終了後には台湾などにも巡回する予定とのことです。※ボローニャについてのパネル展示は板橋区立美術館のみです。