こんにちは、kaku-kaku lab.です。8月2日、神奈川県横須賀市にある横須賀美術館で開催中の『こどもと美術を楽しみたい!キラキラ、ざわざわ、ハラハラ展』に行ってきました。その時の様子をレポートしたいと思います。
横須賀美術館まで都内から総移動時間約2時間と、ちょっとした小旅行気分で美術館へ向かいました。電車を乗り継ぎ、浦賀駅へ行き、そこからバスに乗り15分程で横須賀美術館近くのバス停(観音崎)に到着しました。
バスを降りると目の前に、青い海と青い空がひろがり、海水浴に訪れた家族がたくさんいて、すっかり夏休み気分になりました。
横須賀美術館は、東京湾が間近にあり本当にきれいな景色の中にある、有名な建築家(山本理顕)による設計の美術館です。
以前、絵本作家でもあるブルーノ・ムナーリさんの特別展を開催していたときに訪れてから、きれいな景色、きれいでかっこいい建物、さわったり鳴らしたりできる参加型の展示方法などが気に入って美術館そのもののファンになっていました。おすすめの美術館ですので、ぜひ足を運んでみてください!
さて、今回の展覧会は、「まるで物語を読むように、目をキラキラと輝かせたり、心をざわざわと波立たせたり、ハラハラ・ドキドキしながら美術を楽しんでいただきたい展覧会です」とあいさつ文に書かれていたとおり、キラキラ、ざわざわ、ハラハラの種がたくさん散りばめられていました。
出展しているのは、西村正徳さん、井上涼さん、ミロコマチコさん、重田佑介さん、tupera tuperaさん、の5人(組)の作家さん達です。
みなさん、いろんな表現方法で作品を作られている方々で、いろんな展示方法でいろんな作品が一度にたくさん見られるので、見ごたえ十分です。屋外展示と、屋内会場があり、それぞれの作家さん達がアイデアを出しながら、作りあげた展示とのことです。
〈西村正徳さん〉
まず最初に目に入ってくる作品は、西村正徳さんの「Blossom Tunnel=光の花」です。
美術館をめざして海岸沿いを歩いていると、まず芝生の上の鮮やかなブルーのビニールハウスが目に入りました。海に気を取られていたところを一気にそちらに気持ちが引き寄せられ、ワクワクして、早く見たいと急ぎ足に。
この作品は、鉄パイプとテントシートで造られたトンネル形の作品で、中に入るとそこには光の花ビラが輝いていました。花ビラの形をした無数の穴から光がキラキラと差し込み、光と影で演出された美しい庭が広がっています。出入口に傘が備えてあり、その傘を差すと、傘に花ビラの形の光が映し出されます。外からは想像もつかない空間になっていますので、ぜひ体験してみてください。
美術館に入ると、次の作品が待ち構えています。西村正徳さんの「The Schoolchild Umbrella=光の雨」です。
巨大な黄色い傘に、小さい穴が無数にあいていて、傘の下にいると光の雨が降ってくるような感覚になります。傘の柄の部分に座ることが出来て、子どもたちが座って傘を見上げていました。みなさんも傘の下から見上げてみてください、面白い光景が見られますよ。
〈井上涼さん〉
この作品は井上涼さんが、作詞・作曲・歌・アニメーションすべてを担当した「夏休みオブザ忍者」というアニメーションです。
まず気になってしまうのが、歌です。井上涼さんご自身で歌われているのですが、聞いていると耳から離れなくなってしまいます。
「なつやーすーみ オブザ にーんーじゃ♪」というシンプルなフレーズは、この夏中、私たちの頭で鳴っていることでしょう。。
その歌と、いくつものスクリーン上で流れるアニメーションが合わさり、ストーリーが展開していきます。仮設の壁4面、既存の壁1面、天井、床の合計7つのスクリーンが使われていて、それぞれに違うアニメーションが映し出されています。
第一場、第二場があり、途中で観る人が移動することで場が転換するので、参加型のプロジェクションというのでしょうか。メインストーリーが流れないスクリーンも細かいところでなにかが起きていたりするので、1回ではとても観きれません。
〈ミロコマチコさん〉
まず目に入ってくるのが、今回の展覧会会場で描かれた作品「ヘラジカの森」です。高さ2.6m×横幅12.5mもある大きな作品です。
荒々しいタッチで描かれた今にも動き出しそうなヘラジカ、そのヘラジカの目が印象的な作品です。
1頭目のヘラジカはかっこうよく、2匹目のヘラジカはどこかやさしそうに見えました。私は勝手にポロックの「インディアンレッドの地の壁画」という絵画を連想してしまいました。
あとで図録を見てみると、ミロコさんはオーストラリアでみた赤土の大地を見て「地球の肌をみちゃった!」と思ったそうで、その赤い大地に生きる動物を今回の壁画に描きたいと考えたそうです。
こじつけかもしれませんが、「大地のもつ素朴な赤色を表現しようとした」という点で何か似ているところがあったのかもしれませんね。
天井からつるされた「森」の中には、コウモリやフクロウ、ワシ(?)、タカ(?)などの動物たちが潜んでいて、観察する楽しみがあります。
原画は、「ヒワとゾウガメ」「ぼくのふとんはうみでできている」の2作品が展示されていました。迫力満点で、出版された絵本よりも強い眼力(めぢから)をもつ動物たちは、見ごたえ抜群です。
キラリとしていきいきした動物たちの瞳をみていると、ヘビに睨まれたわけでもないのに、なぜか、心がざわざわとしてくるようでした。
〈重田佑介さん〉
横須賀美術館という場所でみることに意味がある作品を作ろうということで、所蔵作品をモチーフに作られたのがこの「画素山水」です。作品の元になった小川芋銭の「春夏秋冬」を始めに見てから、光り輝く展示室へといざなわれます。
始めに元になった作品を見ているので、今まで静止していた世界が、まぶしいスクリーンの世界の中でいきいきと動き出していることに驚きを覚えます。
8ビットの世界なので、もちろんとてもセルが大きく荒い絵ではあるのですが、不思議と木々のざわめきや鳥の羽ばたき、雪や魚の動きがリアルに感じる気がしました。
幻想的な空間で、ここでもついつい長居をしてしまい、すぐ次にまた面白い空間が待っていることにしばらく気がつきませんでした。
画素山水の部屋の隣にあるのが、「がそのもり」の部屋です。既にこの展示室に移った人たちが、大人も子どもも真っ白な絵本を持って、うろうろしているという不思議な空間でした。
解説を読むと納得、プロジェクターが天井から床の方向に向かって、8ビットで描かれた家や木や人などのアニメーションを映し、私たちがスクリーンとなる真っ白な絵本を持って動き回り、絵を映し出すという仕掛けでした。
夢中になってうろうろと歩いていると、真っ白な絵本の中に映し出される世界に入って冒険しているようで、ロールプレイングゲームの中に入っている気分になりました。子どもたちが光の筋をたどって、ぴょんぴょんと移動している姿がなんだかとっても印象的でした。
〈tupera tuperaさん〉
「ハラハラはらっぱ原画展」というタイトルの展示では、原画よりもまず目に入ってくるのが猛獣たちです。
展覧会担当の「ハラハラ担当でお願いします」という無茶なお願い(笑)からはじまったのが、tupera tuperaさんの展示計画だそうです。そのお願いからいろいろと考え、原画と猛獣の着ぐるみをひとつの空間で展示するようになったとのことです。
絵本の原画は20タイトル、約100点の原画が展示されていていますが、かわるがわるかぶられる猛獣たちが気になって気になって、原画どころではありません。でも、あまり夢中になっていると、頑丈そうで繊細な猛獣たちの健康状態も気になってきますが。。
原画展なのに、ハラハラして落ち着いて原画が見られない。そんな演出に、すっかり時間がたつのも忘れて、原画を見たり猛獣を見たり原画を見たり猛獣をかぶったり・・・。さすが、ハラハラ担当のtupera tuperaさん、見る人を巻き込んで一緒に作り出す、にぎやかで楽しい展示空間になっていました。
とはいえ、原画についてもしっかり見せていただきました。もともと「木がずらり」や「へびのみこんだ なにのみこんだ?」「かおノート」のように、シンプルなパーツからできたユニークな絵が魅力なのかなと感じていました。
ですが、「魚がすいすい」「12の星のものがたり」「アニマルアルファベットサーカス」の原画をみてみると、たくさんの細かいパーツからとても繊細な絵が出来ていることが分かり、感嘆のため息が出てしまいました。
認知しやすいシンプルな原画や、複雑で繊細で美しい原画、大人気の「パンダ銭湯」や「うんこしりとり」の原画などなど、とても見ごたえのある展示でした。
原画というものは、どこの会場でも変わらず迫力満点で圧倒されてしまいます。
担当学芸員の中村さんによる図録には、この展覧会で提案したいことや、『こどもと美術を楽しみたい! キラキラ、ざわざわ、ハラハラ展』というネーミングについて詳しく書いてあります。
「美術のおもしろさは、物語を読むおもしろさに似ている」という視点から、物語を楽しむ(読み解く)ように「作品を楽しむ(読み解く)」ことを提案しているそうです。実際、大人も子どもも興味津々で、作品に見入ったり、作品に参加したり、作品を全身で感じて、味わって、それぞれの「読み解き」をしていたように思います。
タイトルについては、「物語を読み解くように」というキーワードの元、物語を読み進めるときに味わう感覚を表現する言葉として選んだそうです。
キラキラも、ざわざわも、ハラハラも確かに会場には散りばめられていて、きっと人それぞれ感じ方が違うのだろうなと、想像が膨らむ展覧会でした。ぜひ、5組の作家さんたちの作品を読みに、会場まで足を運んでみてください!到着するまでの道のりも含めて、素敵な夏の思い出になると思いますよ。
そうそう、それぞれの作家さんたちの展示会場の近くには、スタンプが置かれています。チケットや手帳に押して行くのも、楽しみの一つになりました。
<レポート:kaku-kaku lab.(カクカク・ラボ:鹿毛泰成/国重安沙)>