夏休みになり、各地でこども向けの企画展が開催されています。板橋区立美術館では『2014ボローニャ国際絵本原画展』という、絵本の原画を展示する企画展が開催されています。歴史あるこの原画展に、毎年遊びに行っているというkaku-kaku lab.(カクカクラボ)のお二人が今年も行くということで、当日の様子をレポートしていただきました。
こんにちは、kaku-kaku lab.です。先日、P_TREEの森さんと一緒に板橋区立美術館で開催中の『2014ボローニャ国際絵本原画展(8月17日(日)まで開催)』に行ってきました。毎年楽しみにしている絵本の原画展です。さっそく当日の様子をレポートしてみたいと思います。
例年は、地下鉄成増駅からバスに揺られて訪れていましたが、今年は都営三田線の西高島平駅から歩いて美術館に向かってみました。
整備された街区に吸いよせられながら、国道17号線の法面(のりめん)を緑化する木々の太さに、その景観の歴史を感じます。国道と高速道路の迫力に圧され、ついつい曲がりたくなるのを我慢しながらまっすぐに歩いて行くと、正面に緑地帯が見えてきます。そこまでくるともう着いたようなもので、大きな看板に従い赤塚溜池公園に沿って行くと、ボローニャ国際絵本原画展のフラッグとゲートが見えてきます。
このコースだと15分ほどで美術館に着き、思っていたよりも近いと感じました。
この展覧会は、世界でも最大級の規模を誇る絵本原画コンクールとして知られ、1967年より毎年開催されているボローニャ国際絵本原画展です。板橋区立美術館では1981年より毎年開催されているそうです。2014年は、3,000を超える応募があり、その中から23ヵ国75作家が入選となりました。今年もその全入選作品が板橋区立美術館に展示されています。
この板橋区立美術館では、1981年から先駆者として子どもに向けたこの企画展を実施してきたということです。私たちが初めて訪れたのは2011年で、この時の特別展示は、フィリップ・ジョルダーノさんの「かぐや姫」でした。偶然にもご本人がいらっしゃる日に観覧することができたので、サインをいただくという嬉しい出来事もありました。そのような経緯もあり、私たちは2011年からのリピータになってしまいました。
例年、特別展示と、展示室2部屋にわたるコンクールの入選作品すべての展示で構成されています。2014年の特別展示は、三浦太郎さんと刀根里衣さんです。
三浦太郎さんは「ワークマン ステンシル」の展示です。内容は見てのお楽しみなのですが、無表情なはずのワークマンが、妙に陽気で楽しげに見えたり、ものすごくしんどそうに見えたりと、表情豊かに見えてくるから不思議です。大好きな作品、ヒューマンスケールで重さの単位が描かれている「TON」の絵本も展示されているので、是非ご覧ください。
刀根里衣さんは昨年、ボローニャSM出版賞(※)を受賞しました。今回は新作絵本「ぴっぽのたび」の全原画と、出版されている絵本の展示でした。印刷された本ではわからない、ふわふわしていて、繊細で、鮮やかな原画の迫力を目の当たりにできます。美術館に入ってすぐの階段絵の原画も、ここで見つけられます。
※ボローニャSM出版賞とは、35才以下のボローニャ展入選者を対象に送られる賞。受賞者には賞金とSM出版から絵本を出版する権利、さらには翌年のブックフェアで展覧会を開催する権利が与えられます。
入選作品は、例年通り前半と後半の2部屋に分かれて展示されています。韓国の墨がにじみだすような柔らかい色遣いや、スペインの多様で鮮やかなオレンジ色、中東の国々のとても濃いブラウンの背景色、ドイツの元気なビタミンカラーなどなど、お国柄による特徴もあるような気がしてきました。本当にたくさんの技法で描かれているので、刺激的です。
あれもこれも出版してほしいなと思ってしまうのですが、実際に出版されている作品は一部なので、想像をかき立てられ、私たちは、毎年この2つの展示室で、創作意欲が炎上します。約80の作品の中から、きっとお気に入りの作品が見つかりますよ。
「スーパー宇宙飛行士」マヌエル・マルソル(スペイン)
この作品は、いろんな素材を使って描かれた、コラージュ作品です。コラージュの代表的な画家といえば、レオ・レオニを思い浮かべますね。あとはアニメーション作家、カレル・ゼマンの作品を思い浮かべました。
この作品では、宇宙船で違う星にきてしまい、水をさがしたり、探検したり、何かと接触したりと、いろんな場面を、いろんな素材を使って描かれています。特に星(隕石?)を描いている絵では、星の模様がライオンになっていたりして迫力があります。
コラージュはいろんな素材を組み合わせて、形にしますが、よく見てみると、空き箱の文字を使っていたり、セーター生地の写真の一部を使っていたり、どんなものを使って描かれているのか、いろいろ見てみるのも楽しいです。あとは絵を描くのが苦手というお子さんも、大人の方も、いろんな素材を組み合わせると作品を描くことが出来ます。試しに、自分でも身近な素材で描いてみてはどうでしょうか。
「青い木」アミーン・ハサンザーデ=シャリーフ(イラン)
イランのアミーン・ハサンザーデ=シャリーフさんの作品です。青の鮮やかさと、厳しさが際立ち、ストーリー性も明確でしたので、心に残った作品でした。結末の受け取り方が多様な作品で、私たち3人の間でも見解が分かれました。ハッピーエンドなのか、アンハッピーエンドなのか、「思い通りにいかないなにか」との共生についてなど、考えさせられる作品です。
「マリクの本」アンナ・フォルラーティ(イタリア)
イタリアのアンナ・フォルラーティさんの作品です。これは、巨大な本を寝転びながら読む少年の姿に吸い寄せられた作品でした。私はあまり読書家ではありませんでしたが、本に対する畏怖の念だけはしっかりあり、「本」の大きさが、期待度の高さに比例しているように感じ、共感してしまいました。さらに、この展覧会の絵「本」というキーワードが頭をよぎり、心に残る作品となりました。
じっくりと見て回ってしまったので、思いのほか時間が経ってしまいましたが、毎年ながらたくさんの刺激を受けた展覧会でした。
最後に、チケットにスタンプを押し、大満足ではあったのですが、「あれ?そういえば・・・」と疑問に思うことがいくつかあることに気がつきました。そこで、板橋区立美術館の広報・高木さんにお話を伺いました。
——大賞はないのですか?
「ボローニャ国際絵本原画展には大賞というものはなく、多様な絵本の表現を紹介するために、順位をつけずに展示するというスタンスです」
——展示の移り変わりについて、どのような方針をとられていますか?
「2011年から、35才以下の入選者に与えられる『ボローニャSM出版賞』に焦点を当て、特別展示を企画するようになりました。その受賞の第1回目が、フィリップ・ジョルダーノさんでした。
刀根さんが第4回目のボローニャSM出版賞受賞者となり、今回の特別展示のひとつになりました。今年の特別展はたまたま日本人二人ですが、今年の受賞者である刀根さんと、ボローニャ国際絵本原画展で何度も入選しているいわばベテランと呼べる三浦さん、この原画展に深く関わる二人の対比が面白いと思います」
——来場する人について、感じることや配慮していることはありますか?
「お子さん連れのお客さまが多いので、フレームの高さや、堅苦しくない雰囲気づくりに気を配っています。絵本の「読み手」にも「作り手」にも愛される展覧会になっていること、リピーターになってくださる方が多いことを、とても嬉しく思っています」
——展示の順番やタイトルについて、どのように決めているのでしょうか?
「展示の順序は、アルファベット順になっていますが、決められたスペースに、色々な組み合わせの額縁を並べるため、ほとんどパズルのようにして展示しています。
色合いや大きさなど、バランスを考え、作品や展示室全体ができるだけ魅力的に見えるように、ということを気にして展示しています。邦題や各場面の説明文は、翻訳者さんと一緒に決めています」
——「原画」を見ると、製本された作品とは美しさや迫力が全く違いますね。やはりこだわりを持たれているのでしょうか?
「CG作品が増えてきているので、「原画とは?」と問われているように感じています。ただ紙や印刷技術など、作家さんが出力に対してすごくこだわっています。審査も、コピー用紙にただ出力しただけの作品では、審査はされますがなかなか選ばれないというのが現状です。いまは作家さんたちにも出力技術についての知識が求められているのではないでしょうか」
——チケットが毎年かわいいので、楽しみにしています。そういう方が多いのではありませんか?
「今年のチケットは、会場でスタンプを押すことで完成します。押し方によってかすれたり濃くなったりするので、自分だけのワークマンが出来上がります。
毎年チケットに施されるしかけを楽しみにしているという声が聞かれます。とても嬉しいことではありますが、プレッシャーも感じながら、デザイナーさんと相談して作っています(笑)」
みなさんもぜひ迫力満点の原画を見に、遊びに行ってみてください!歴史的な展覧会で、新人デザイナーさんたちの新たな表現への挑戦を目の当たりにできるので、大人もこどもも良い刺激を受けられると思います。
現在では、たくさんのこども向け企画展示が各地で開催されていますし、そのような他の絵本展と連携しての割引なども行っているようですので、夏休みに絵本展めぐりを計画しても面白そうです。
〈レポート:kaku-kaku lab.(カクカク・ラボ:鹿毛泰成/国重安沙)〉