心身を整える音楽とリハビリテーション ─ 音楽療法士 三宅聖子さん インタビュー[後編]

心身を整える音楽とリハビリテーション ─ 音楽療法士 三宅聖子さん インタビュー[後編]

遊びは、大人が教えるのじゃなくて大人が子どもの真似をする。それは子どもにとってすごいご褒美になるのです。

── 自閉の子が喜びの感情を持つ、というような効果が音楽にあるというのは、コロラドで学ばれたんですか?

三宅:神経学の理論と技法を学びました。子どもたちの発達を促進するために、音楽プラス子どもたちが心地良いと思うアイテムを使うと効果的であるということを。パラシュートやバランスボール、リトミック用のスカーフ、 カホンなど身体運動を使って鳴らす楽器などはとても効果的だということを学びました。子どもたちの好奇心と興味は無限です。

▲渋谷区生活実習所つばさ

自然に何かを使って、発想して、工夫して遊ぶということは、子どもたちの方が知ってます。大人は遊び方を教えようとするのです。でもそうではなくて、子どもたちが遊んでいたら、それを横で真似をするのが大人の役割です。そこで「楽しいね」と言えば、もっと楽しいことをしようと思うのが子どもです。大人はついつい教えたがるでしょ。教えるのではなく、子どもに教わるということが必要です。

── 教えるんじゃなくて、邪魔をしない。

三宅:そうです。その通りです。慶応大学の山本淳一先生の研究室にいた友人も「大人が教えるんじゃなくて、まずは、大人が楽しんでいる姿を見せる事。そして、子どものしていることの真似をすれば、それは子どもにとって、素晴らしいご褒美になる」とおっしゃっていました。大人が子どもの遊びを真似することは、子どもを認め、子どもの持っている想像力を発揮するチャンスを与えることになるのだと思います。

── そういうことができる大人は素敵ですね。

三宅:素敵ですよね。子どもは一緒に遊んでくれる大人が大好きです。子どもの心身の発達促進には、遊びに共感して同調する大人の存在が効果的ですね。

たとえば泣いてる子がいるとバランスボールの上に乗せてあげて「♪泣くの泣くの、泣ーくーのー♪」と泣いてる状態を歌うのです。そうすることで笑いに変わります。

── 大人がうまく一枚上手になって。でもそこにはやっぱり音楽がついています。

三宅:そうです、そうなんです。

── なんで泣いてるの!とかそういうんじゃないですからね。

三宅:そうですね。「泣くのよね、泣くのよね、悲しいよね」とか言いながら「♪かなしい、かなしい、かーなーしー♪」とか。パパたちにはちょっと難しいかもしれない。歌のお姉さんやお兄さん、歌のおばちゃんだからできることかもしれないですね(笑)。

こうして今起きてる状態を音や歌で表現すると、子どもたちは安心するんですね。泣いていてもいいんだ。怒っててもいいんだ、って。
「やめてと言われてもやめられないよね。いま泣いてるのね、悲しいのね、分かる分かる」っていう、そういう状況を歌で伝えたりするというのは効果的です。

そのときに大事なのがバランスボールやトランポリンという遊具です。もしかしたら歌ってるだけではダメかもしれない。遊具を使いながら「なんか気持ちいいな~(前庭覚・固有覚・触覚を刺激する)」という気持ちとリンクさせるということが必要です。

▲生活実習所の利用者の方の作品。展覧会で受賞しました。

── 子どもによって好きな遊具は違いますか?

三宅:そうですね。普段から子どもが気に入ったものを見つけられるようにして、それを大人が知っておくことが必要です。こちらの先入観ではなく子どもがどれを選ぶか。なるべく多くの種類があると良いですね。もし かしたら色で選ぶかもしれない。大きさで選ぶかもしれない。その子の気持ち、状況に合わせてこれって思う、そういうひらめきを認めることです。子どもが自分で選択することがすごく大事なことだと思います。

── 大人が与えるのではなく、子どもが選べるように大人が準備してあげる。

三宅:どれ?どれにする?こんなにいっぱいあってパラダイスよ。どれでもいいわよという世界(笑)。

── 子供はちゃんと選べますか?

三宅:選べる子と、選べない子がいます。 「ちゃんと選べる」ようにするのが大人の役目。

── 選べない子の場合はどうするんですか?

三宅:複数の中から選べない子は、2つの内からどっちにする?と問い、目が動く・身体が向くなどにより判断することも有ります。それでも選べない場合は、今はおもちゃに興味がない、物に興味がないということであれば、そういう時には、くすぐりっこをします。

── ああ、そうか、なるほど。

三宅:身体遊びをします。転がったりとか、バスタオルに乗せてクネクネ引っ張ったりとか。大人が2人いればシーツブランコで揺らしたりします。

シーツブランコやハンモックは、歌に合わせて横揺れしながら「♪おおきく、おおきく、おおくなーれー。ちいさく、ちいさく、ちいさくなーれー♪」こ小刻みにブルブルふって「♪ごろごろごろごろ、どっしゃーん♪」など。「ふわふわ」とか「がしゃがしゃ」とか、そういうオノマトペをうまく使いながら、身体活動をします。

── オノマトペは英語にはない、日本語独特の表現ですよね。最初は動物もオノマトペで呼びますね。ワンワンとか、ニャンニャンとか。

三宅:子どもは自然界の音・声・事物の状態や動きを音で表す言葉から入ります。「ドキドキ・ふわふわ・ワクワク・キラキラなど」の音から、「ワンワンいたねー」とか「小さいワンワンだねー」とか少し言葉を付け足して。それも全部子どもたちの発した音声に大人が食いつくことですね。

── やっぱり子ども発信ですね。大人が何か教えるって、ある意味おこがましいんでしょうね、きっと。

三宅:子どもは教えてもらいたいとは思っていないと思います。

── 子どもからしてみたら余計なお世話(笑)。

三宅:自分を認めてもらえることはとても大切です。3歳過ぎたら自分を認めてもらう経験をどれだけするかということが、どんな大人になっていくのかということに繋がると思います。

── とても大事ですね。

三宅:先回りをして教えられたり、ダメ出しをされてしまったら、自尊感情がどんどん下がる。すると子どもは自信をなくしてしまうので、子どもたちがしたことを認めつつ、その出来たことに楽しみのプラスアルファをどれだけさりげなく出せるかが大人のかかわり方の醍醐味だと思います。

自分の感情を出しても良いという場をたくさん作る。そこに音楽があると自分の想いとか感情とかを遠慮なく出すことができます。メロディやリズムが決まっていたとしても、出した音には自分の感情がのっかっているわけですから、怒っていれば大きな音になるかも知れませんし、悩んでいれば優しいおどおどした音になり、自信がないときは少しずれた音(不協和音)になったりするでしょう。自分の気持ちが全部出るので、あるがままを受けとめ認めたいです。

── それをきちんと感じ取るには、大人の側に余裕がないとできないですね。

三宅:その通りです。どうしても大人は良しとする型にはめようとしてしまうので。それはよくないですよね。まずはその子の今の表現をきちんと受け止める。それから少しずつ関わりの目的である発達の促進という希望を叶えられるようにかかわる。こんな音どう?こんな動きはどう?これは?と。これもいいなと気づいてくれたら、それも一緒にやってみよう、よろしくお願いね。とノンバーバルなコミュニケーションを成立させます。

── これまで多くの子ども供を見てこられたと思いますが、とくに印象に残っているお子さんっていますか?

三宅:たくさんの親子に出会いました。長年臨床をしていると奇跡のようなことも起きます。どの子にしましょう(笑)。

そうですね、1歳半の子。インフルエンザの予防注射で脳炎になって左の脳が全く機能しなくなりました。病院の先生からは、きっと歩けないし言葉もしゃべりませんよと言われました。 以前、松井紀和先生(日本臨床心理研究所所長・精神科医)から「子どもはお腹の中にいるときに、生命の誕生から35~40億年という人間の進化を体験するんだよ」という話を聞いたことを思い出して。「そうか!」と思い。

まず「めだかの学校」を歌いながら、魚のようにくねくね泳ぐような感じで身体を動かし足の裏から刺激を入れます。その次は両生類でトカゲやカエルの動きを真似しました。様々な歌を使いながらぴょんぴょんと跳んでいるような動きをし、「アイアイ」に合わせて子どもの身体にパタパタ・ポンポンと触れながらパッティ ングをしました。

膝を折って四つ這いで「うま」を、膝をのばして高這いを「森のくまさん」に合わせて、「さんぽ」で歩く、「トンボのメガネ」 では実際に飛んでるように手をマッサージしながら伸ばして小走り。 どんぐりになってころころ床で転がる。毎日、その子が5歳になるまで大人が補助をしてあたかも出来たかのような活動を続けたら、なんと、UFO(※)を跨いで床を蹴るようになって。そのうち歩けるようになり、小学校に上がる頃には走れるようになりました。病院の先生からは「言葉は話せないですよ」って言われていましたが、おしゃべりも上手になりました。

(※)立位保持が難しい子ども向けの歩行器

そのうちに、人のことを押し倒すようにまで力強くなって、結局家にいられなくなってしまい児童養護施設に入りました。でもそこでも他の子に手を出すからということで余儀なく退所して、また他のところに行くことになって…。

── えーと、それはつまり、人間の進化の過程を実践したってことですか?

三宅:そのとおりです。念じながら信じてやってました。魚から両生類に、そして四つ這い、二足歩行になるところはUFOで(笑)。

信じて関わっていれば、脳に損傷がある子でも、5年6年かかって走れるようになったりすると。子どもの能力(脳の可塑性)ってすごいです。歩き始めたのが何歳何か月かによって知的発達が変わってくると言われているので、歩き出すのが遅ければそれだけ能力的、知的にはゆっくり。

そのお子さんは知的発達はゆっくりですが、身体機能はすごく元気で活発になって。まるで奇跡です。医者は「無理ですよ」っておっしゃってたけれど、走れるようになって、喋れるようになって。

喋れると言っても一方的に「進めー」とか物の名前などの単語を言いながら走る。身体は元気になったが、生活しづらい子になっているようです。18歳になったご連絡をいただきましたが、これからどうするのか社会生活が難しくなっているというすごく印象的なエピソードでした。

── 奇跡的なエピソードです。人間の可能性ってすごい。

三宅:本当ですよね。これはまた別の話ですが、お母様が韓国の方でお父様はヨーロッパの方で発達障害のお子さんがいました。いろんな言葉が混ざってよく分からないのか、全く話さないけれど歌のときに語尾だけ合わせるのです。

「♪これこれなーにー、なんだろなー♪」の「なー」だけ合わせる。「ドーナツ、ドーナツおいしいねー♪」の「ねー」だけ合わせるとか。小学校入学するまで、ずっと「ねー」とか「なー」とかしか言わなかったのです。

小学校にあがって少ししたら小学校の先生から「様子を見に来てくださいよ、ちゃんと話してますよ」と連絡がありました。そのお子さんは幼少期から音楽を楽しんでいたからリズム感もいいし、音の上がり下がりもよく身についている。呼吸、音声の出し方もちゃんと身についていたのですね。言葉もリズムや抑揚なので。

「それまでの音楽経験があったから今の言葉があるんですよ」と先生がおっしゃっていました。お母さんが韓国語でお父さんフランス語、私達は日本語で療育していたから混乱していたのでしょうか(笑)?

── 人間の脳はすごいですね…。

三宅:本当です。エピソードを言えば山のようにあります。本当に(笑)。

基本的に子どもの発達は、中枢神経から抹消神経へ、体幹がしっかりしてくれば粗大運動から微細(巧緻性の高い)運動へと発達し、前提覚・固有覚・触覚の発達が定着すれば視覚や聴覚からの入力刺激がコントロールできて心身の機能が順序良く発達するとされ、飛び越しがないです。

感覚統合の経験が足りない子は行動障害や、発達や言葉の発達が遅れるので、その辺りもしっかり考えていきたいですよね。

── 感覚統合の考えですね。

三宅:そうですね。やはり前庭覚、固有覚、触覚、皮膚感覚は、すごく大事なので。トッケンさんの遊具もそうですよね。前庭覚を使う、固有覚を使う運動遊具が豊富で、触れるという部分を見てもいろんな種類があって、すごくいいと思います。固有覚もしっかり使うし、皮膚感覚も使う。あとはフラフラする椅子(※ フラチェア…カタログ7ページに掲載)、あれなんかもまさしく前庭覚の訓練ですよね。すごくいいと思います。

── ありがとうございます。やっぱり感覚統合の実践にしても、音や音楽を使うとスムーズにいくということなんでしょうね。

三宅:私は「整える」という言葉をよく使うのですが、音楽には、心や身体を整えてくれる力があると思います。音や音楽のある環境を子どもの様子に合わせるのも整えるということであり、子どもが楽しく笑顔で適応するということも「整う」ことで発達促進にはとても大事だと思います。

療育や保育園、そして学校の先生たちには、ぜひぜひ歌や楽器を使うことは勿論ですが、さらに効果を得るために遊具を使った身体運動を楽しみ、遊びを通して発達促進をしていただきたいと思うのです。

▲インタビュー終了後に記念撮影。左から森、三宅さん、後藤(Didit)。

(終わります)

インタビュー前編][インタビュー中編


【本記事について】
Didit(遊具メーカーの福祉事業部門として製品の企画や開発を行う)企画によるインタビュー(全3回) インタビュアー:森行正
初出:note| note版:https://note.com/didit2024/n/nc2fddf112e14

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