連載
ママのため息| マーフィー恵子

【第21回】歯のおはなし

ずーっと放っておいたオヤシラズがうずきだした。熱まで出て来ちゃって、あなどれない。この歯はずっと前から歯茎の下で横向きに生えていて、表面には出ていなかった。それがなぜか結婚記念日の日に急に自己主張を始めて、他の歯を押し始めたのだ。

時効かとあきらめて歯医者さんへ。こういう時、小さい子どもがいると大変だ。母が歯医者に行ってる間、誰が面倒を?(私は大変ラッキーなことに義母がすぐ近くにいるので、頼らせてもらったけど)

しかしもっと大変なのは実は治療後だ。うわさには聞いていたけど、オヤシラズを抜くのはこんなに痛くて腫れるものとは。特に私のは歯茎の下の歯を抜くという治療だったので、歯茎を切開したり骨を少し削ったり、何針も縫う処置を要した。

「最低2日間は仕事しない方がいいよ。今日動けば動くほど腫れがひどくなるよ」と歯医者さんに言われ、家でこの日締め切りだった日本の雑誌の原稿だけ何とか仕上げて横になっていた。痛・痛。でも母乳なので痛み止めの強い薬は飲みたくない。

数時間後に子どもたち帰宅。こら「ママどうしたの~?」ってよじ登んないで~。わ~、ニコニコしながらハイハイで突進してこないで~。痛・痛・痛。

寝ているのは危険だと、起きた。3歳の息子は、
「なんで顔が大きくなったの?」
「ママ歯を磨かなかったから痛いの?」
「なんで血が出てるの?」
「口の中にバンドエイドはれば大丈夫だよ」
「サンドイッチ作って」
「牛乳ちょうだい」
「ぼくも塩水のみたい~(注:うがい用)」
「氷出してきてあげる」

はぁ。でも話すのも大変で。何もかめないので6ヶ月の娘の離乳食をシェアして食べた。娘も1日離れていたせいか、いつもよりくっついて来るのでだっこしてたら、やられました。頭突きで患部に命中3回。涙。たぶんオフィスで仕事していた方が休めた?

実は、抜いた歯をもらって帰ってきた。息子の好奇心が強い時期なので、見せようと思ったのだ。じっと見つめてから、「じゃあ置いておこう。Tooth Fairy(歯の妖精)が来るから」とワクワクして洗面所に持って行った。おばあちゃんに教わったんでしょう。

オーストラリアには、子どもの抜けた乳歯を持ち去って、代わりにおこずかいを置いて行ってくれるという、素晴らしい妖精さんTooth Fairyがいるのだ。日本でも乳歯が抜けたら丈夫な永久歯が生えてくるように屋根に向かって投げたりとか、習わしがあるけど似たようなもの。

ダンナの話によると、子どもの頃は歯が抜けると嬉しくて、翌日歯を置いた場所にあるコインを見つけて妖精が来た~と興奮したそうだ。でも大抵の子はそのコインで駄菓子を買っていたという。なんかそれって歯に良くなさそうな話だな…。

翌朝、息子は起きてすぐに洗面所にかけて行った。「妖精来たよ~!」と50セントを握りしめてとても嬉しそう。よかったね。私の歯なんだけど。その後スーパーへ行った息子は「歯」の形をした駄菓子を買ってきて、ママの新しい歯買って来たよと言いながらパクパク。

でも私の顔の腫れといい血といい、少しびっくりしたのか、ちゃんと歯を磨かなくちゃ痛い目に合いそうだ、ということが本能でわかったらしい。この日から歯を磨かせるのに、それほど手こずらなくなったのは不幸中の幸いなのだった。

(リビング・イン・ケアンズ誌2001年5-6月号に掲載)

マーフィー恵子さんの近況

「当時、私が経験したことを今度は16歳の息子が!
 しかも4本の親知らずを一気に抜くという全身麻酔の手術でした。

 オージーは歯並びをとても気にするので、
 この手の手術は結構一般的なのです。

 私としては、せっかく生えてる歯を抜くのは
 もったいないなあという感じです。。」

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〈2015年4月〉

 

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マーフィー恵子

マーフィー 恵子Keiko Murphy

Pouch Quality Aussie Gifts
オーナー

93年よりオーストラリア、ケアンズに在住。「ハートに響く異文化体験のトビラ」をモットーに、地元企業と日本人マーケットをつなげるPRやイベントを手がける会社 JC Creations を経営。1995年フリーペーパー「リビングインケアンズ」を創刊。2011年に出版事業は売却。2012年4月に地元の良いモノ・素敵なライフスタイルを紹介するセレクトショップ「パウチ」をオープン。著書に「家族でケアンズ最強ガイド」(講談社)がある。執筆記事はこちら
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