連載
たのしい絵本。| kaku-kaku lab

【第4回】あかいふうせん

04_01

あかいふうせん
原題『il palloncino rosso』
作者:イエラ・マリ / Iela Mari
代表作:木のうたりんごとちょう
出版社:ほるぷ出版

kaku-kaku lab.(カクカク・ラボ)のお二人がおすすめの絵本を紹介する「たのしい絵本。」4冊目となる今回は、絵本というよりアートブックと呼びたくなるような、美しい絵が特徴的なイエラ・マリの作品です。(パートナーだったエンツォ・マリ氏の作品は以前こちらで紹介しています)。いつもとはちょっと違ったアートな絵本の世界をお楽しみください。


この絵本のキーワード

「カタチの無限ループ」
「読み聞かせ自由度 無限大」
「単純、でもリアルな生命力」

はいけい

作者のイエラ・マリという人は、一体どういう人だったのでしょうか。

・イタリアのブレラ国立美術学校で絵を学んだこと
・そこで夫となるエンツォ・マリ(絵本作家・デザイナー)と出会ったこと
・全部で8冊の絵本を世に送り出したこと

作品はとても有名なのに、本人の情報はこれくらいしかないのです。
せっかく絵本を紹介するのですから、描いた人のこともよく知りたい!
と思い、世界中の記事を探してみました。
そうすると、少しずつイエラ・マリという人のことがわかってきました。

1932年にミラノで生まれた彼女は、
1949年から1954年までブレラ国立美術学校学び、
そこで出会ったエンツォ・マリと1955年に結婚します。

それから1年ほどは、子どもたちの視覚について研究を行ったといい、
それはその後のふたりの創作活動に影響を与えるものでした。

2人の子どもを育てながら夫婦で創作活動を行い、
エンツォが家具やおもちゃなどのプロダクトデザインの道へと
方向転換するまで続きました。

彼らの作品は、多くを語らずに極端に単純化したカタチで、
子どもたちの自由な想像を促すように出来ています。

イエラは1985年のインタビューで、急速に発達する社会のなかで、
テレビが子どもたちへ与える悪影響を憂いていました。

さらに、
「私の子どものための本で、
私自身の興味を引く本がみつからなかったので、
絵本を作るのです」とも答えています。

自分の子どもに読ませたいと思える絵本がつくりたい、
テレビに対抗できる絵本がつくりたい、
そんな想いで創作をしていたようです。

04_07

また彼女は、「子どもたちには複雑すぎる」と考え、描くものをよく観察し、
すべての情報を描きだしてから単純化するという描き方をしていて、
その中で生き生きとした生命力を描くことや、
変化する形、時間のサイクルを大切にしていました。

そして、ドイツ(ドイツ児童文学賞 1971)や
イタリア(ボローニャ国際児童図書賞 1973)、スペインなどで、
1970年前後には、高い評価を受けました。

そうした想いから生まれた絵本は、
登場してから40年以上経っても色あせることなく、
テレビにも負けず愛され続けているということを、
イエラに教えてあげたいですね。

あらすじとかいせつ

こどもがふうせんガムをふくらませる。
そのふうせんガムがとんでいって木にとまり、
りんごに変化して地面に落ちてしまう。
するとちょうになって飛んでいき、
お花ばたけにとまって花になり、
花はこどもに摘まれて、まっ赤な傘になる。

文字のない絵本。
文字がない?
そう、絵だけの絵本なのです。

04_02

普通、絵本には絵があり、
ことばが絵に意味を与え、ストーリーを構成しています。
そして、ことばが時間の流れに沿ってストーリーを進行させていきます。

しかし、この絵本は文字が無く、
読み手がページをめくることによって時間が進行していきます。

一見アニメーションのような絵本で、
ページをめくることで時間が経過し、形を変えながら進んでいきます。

でも、アニメーションには、トータルの時間、時間の流れ、視点位置など、
アニメーションの作り手によって決められていることがあり、
ページをめくる楽しさはありません。

04_03

絵本は読み手がページをめくる行為が、
ストーリー進行に重要な役割となります。

イエラ・マリの作品には、
物語が最初のページへとループするような「しかけ」がしてあります。
なので途中のページから読んでもいいですし、逆から読んでもいいと思います。

読み手が自由に読めるので、進んでは戻っても問題ありません。
楽しみながら読める絵本です。

04_04

文字がないから読み聞かせが出来ないのでは?
と思われるかもしれませんが、そんなことはないと思います。
特にこの絵本は形が抽象化された絵が姿を変えていきます。

白を背景に、黒い輪郭線、変化する赤い形。
ページをめくるたびに赤い形が変化し、
ふうせん→リンゴ→ちょう→花→傘「のような」カタチへと、
徐々に形を変えていきます。
まるでカタチのしりとりか、連想ゲームでもしているようです。

04_05

そして、絵が抽象化されているからこそ、
これは何かな?とお子さんと話ながら進行していくこともできます。

例えば、ちょうが出てくるところなら、
どんなちょうかな?モンシロチョウかな?アゲハチョウかな?
など楽しみながら話を進めることができます。

04_09

いろんな楽しみ方がある絵本です。
是非みなさまも読んでみてください。

04_08

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SHARE ON!

kaku-kaku lab

 kaku-kaku lab. カクカク・ラボ

ホームページ

鹿毛泰成と国重あさにより2014年に結成。建築設計、家具やプロダクトのデザイン活動のほか、絵本の収集や創作、絵本やこども向け展覧会のレポートなど多岐に渡り活動中。
また、2009年から取り組むkoeda plus projectでは主催者の一員として、建築やまちづくりなど専門を活かして活動を継続中。まちや里山、小学校を舞台にして、その土地の素材を使い、「手をうごかすこと、モノをつくることは楽しい!」をテーマに、子どもと一緒に参加できる、モノづくりや環境教育のワークショップを企画・運営。地域の生涯学習・環境学習ツールとして、樹木調査の実施、tree-tagの作成・設置なども行う。執筆記事はこちら
TOP