2025年らしい、暑い暑い夏の日に、多摩市諏訪に新しくオープンした 風とキャラバン で「デンマークで見つけたあそびのデザイン お話会」が行われました。
スピーカーは、2年前に社会教育機関主催のデンマークツアーに参加したあそび環境コーディネーターの横尾泉さんと、今年のツアーに参加したばかりの都内保育園園長、仲田和子さんのお二人。それぞれの視点から、デンマークで見つけた「あそび」のヒントを語ってくれました。

「保育士が5時半に帰れる国」デンマークへ
デンマークといえば、仕事とプライベートのバランス、ライフワークバランスが取れている国として知られています。
都内の保育園で働く仲田さんにとって、朝早くから夜遅くまでの勤務は日常でした。「子どもと向き合える素敵な仕事」である一方、長時間労働は心身に負担をかけ、子どもとの時間がつらく感じられることもあったといいます。そんなジレンマを抱えていた仲田さんは、デンマークに理想の働き方のヒントを探しに行きました。
仲田和子さん
「保育士である私がなぜデンマークに行きたいと思ったかというと、デンマークの保育士は5時半で退勤できると聞いたからなんです(笑)」

「デンマーク人はオープンで社交性がある、他者を受け入れるマインドがある、と紹介されました。そこで、はて、私は日本人をどんなふうに表現するだろうか?と考えたんですね」
デンマークの社会は「信頼、連帯」という言葉で表現されるとおり、日本人の考え方と似ている部分が多い。日本人が理想とすることが実践されていると感じたといい、その差はなにかと考えてみたところ…
「日本人も大いにその素質はあると思うんですよね。考え方はほぼ同じだと思っていて、ちょっと惜しいという感じで。最終的にそれを行動に移すか移さないかのところが鍵のような気がします」
歴史や文化の違いから、他者を受け入れるマインドが根付いている、実践しているという部分が決定的な違いなのかもしれません。

「特別支援学校(森の幼稚園)に訪れた時、園長先生が『人生は転ぶことばかりでしょ』って言うんですね。」
この言葉は、仲田さんの心に深く響いたようです。
「保育園の園長をしていると、『お子さんをお預かりします』という言葉に代表されるように、『怪我のないように努めます』と約束してしまいがちです。でも、人生は転ぶことばかり。大人になった私たちがすでに経験している事実を、子どもたちにもきちんと伝えていかなければならないと思いました」

「特別支援学校には『遊ぶ時は、一人ではなく友達を誘って遊ぶこと』という、たった一つのルールがありました。ここがやはり共同体の中の自分っていう考え方だと思います。また、学校はテストの点数で成績はつけません。子どもがのびのびと生活しているか。困りごとはないか、というのが振り返りの指標だと話していました」
さらに、デンマークでは、子どもたちが「自分はどうしたいか」を常に問われる環境が整っているといいます。
「1日のプログラムは緩やかに組まれていて、ほとんどの場面で『あなたはどうしたいの』と聞かれる。自分の意見が聞かれ、それが反映される経験をすることで、主体性が育まれていくんです」

「デンマークの人たちは、簡単に手に入るものやタダでもらえるものにはあまり興味がないんです。自分で作りたい、という気持ちが強くて。日本から持っていった折り紙も、折ってあるものよりも自分で作りたがっていました(笑)」
仲田さんは、与えられたもので満足するのではなく、自らの手で何かを生み出すことを喜びとするデンマークの人々の姿勢も興味深かったと言います。

今回のデンマークへの旅は、異文化を学ぶだけでなく、自身の環境や周囲の人々への感謝を再認識する機会にもなったと話します。
「デンマークの自然はとてもきれいですが、日本に帰ってきてよく見れば、青い空、緑、広がる海は日本にもありました。今回の旅は、日本の良さにもう一度気付くというか、自分の周りに感謝する、そんな旅になったなって思います」

あそびは学びの基礎
横尾さんは、デンマークで暮らす人々の「自分で決めることが当たり前」という文化を体感したいと思い、ツアーに参加したそうです。
横尾泉さん
「デンマークで暮らす人たちは、家でも学校でも社会でも自分で決めることが当たり前。小さな頃から自分で選び、自己決定が尊重される経験を積んできています。そんな国の教育や社会の様子を体感し、学ぶために参加しました」

「デンマーク発祥の有名な玩具メーカーLEGO(レゴ)は、デンマーク語の『よく遊べ』が語源です。よく遊ぶことが子どもの成長に欠かせないという信念が込められています」
横尾さんが訪れた保育園の壁には、レゴの組み立ての土台となる基礎板が貼られていました。
「平面だけでなく立体的に物事を見たり考えたりできるよう工夫されていて。遊びの中で多様な視点や社会性を育むことが重視されているんだなと感じました」

冬が長く暗い北欧では、自然の光を大切にしています。保育園には大きな窓があり、それは季節や天気の変化を生活の中に取り入れるための工夫です。また、木の枝を室内に飾ることで、人工的な空間に安心感を与えています。
「生活の中に光とか自然を部屋に取り込むという概念が、やっぱりこちらは強いんだなということを感じました。逆に、『なぜ明るくする必要があるの?』って聞かれるんですよ。自然の光がやっぱり大事で、それ以上、煌々となぜ照らす必要があるの?みたいな」

窓の前には、ちょっと危ないかな?と思うようなステップが設けてありました。子ども自身が「ここに登れるか」を自分で判断する力を育むための環境だと感じたといいます。
「ここに登れる子どもだけが登るんだと思うんです。大人がいなくても、子どもが自分でやってみて、できなければ諦めてくれ、というメッセージなんじゃないかなと思って」

また部屋には様々な肌の色をした人形が置いてあるというのも、日本ではなかなか見ない光景だと言います。「この人形で遊ぶことで、『なんで肌が黒いんだろう』みたいなところから、例えば図鑑で調べてみるとか、世界地図見てみるとか、探求活動みたいなことにつながっていくんじゃないかな」
訪れた学童では、電子ゲームが禁止されておらず、子どもたちは皆で楽しんでいたといいます。
「『どうせやるんだから、禁止してもやりたければやる。だったらみんなでやればいい』という考え方でしたね」

クラフトコーナーには、ロール状の布が置かれており、子どもたちは制限なく大きな作品を作れるようになっていました。これは、「無駄」を恐れず、想像力を解放させるためのデザインだと感じたといいます。
「無駄なことって、やってみないとわからないと思うんですよ、何が無駄なのか。だから本質がまだわからない子どもに『無駄遣いしないで』って言っても、わかんないよなと思って。私は保育士を辞めてから気づいたんですけどね」

横尾さんは、デンマークのデザインの背景には、美しく心地よい空間で、どう生きるか、どう過ごすかを自分で決めること「ウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に満たされた状態)」の考え方があると感じたといいます。
「図書館は『公共のリビングルーム』と呼ばれていて、居心地の良い空間がデザインされていました。子どもたちが本を読むだけじゃなくて、遊ぶということが、図書館という公共の場で許されているってことが、私には結構衝撃的だったんですよね。遊びは学びの基礎であるっていうことが、どの大人にも浸透しているってことが、こういうところにも表れているんじゃないかな」

駆け足ですが、当日の様子をダイジェストで振り返ってみました。実際には、もっともっとたくさんの興味深いトピックが語られましたが、横尾さんが「まだまだ話し足りない」とおっしゃるほど、デンマークの魅力は尽きません。また近々「お話会」は企画されると思います(たぶん)。どうぞお楽しみに!
レポート:森行正