連載
たのしい絵本。| kaku-kaku lab

【第1回】いたずら きかんしゃ ちゅう ちゅう

いたずら きかんしゃ ちゅう ちゅう

いたずら きかんしゃ ちゅう ちゅう 原題『CHOO CHOO』
作者:バージニア・リー・バートン/Virginia Lee Burton
代表作:ちいさいおうち、他
出版社:福音館書店

絵本が大好きというkaku-kaku lab.(カクカク・ラボ)のお二人が、これまでにとっても影響をうけた絵本を紹介していくコンテンツ『たのしい絵本。』はじまります。絵本選びの参考にどうぞ。

> kaku-kaku lab.インタビュー 1 2 3


この絵本のキーワード

「読み聞かせテク」
 擬音語がたっぷり。読み聞かせ難易度は高いけれど、こどもたちは大喜び。

「反面教師」
 こんなに心配や迷惑をかけたらダメです。

「時間どろぼう」
 少し長いけれど、それを感じません。

はいけい

この絵本は、第二次世界大戦が起こる少し前に著者バージニア・リー・バートンが、4歳の長男アリストリデスのために描きました。彼女の初めての作品は、子どもがすぐに飽きてしまい、その反省を活かして描かれたのが、本作です。

「自分の子どもにも長く愛される作品を」と描かれているので、私自身もそうだったように多くの子どもたちが、何度も何度も「読んで」とせがむ愛される作品となっています。

原文では、ちゅうちゅうのことが「she」と表記されています。それは、ちゅうちゅうが女の子であることを示すものなのか、ただ機関車が女性名詞だからなのかは、判断が分かれているようです。バートン本人は、一体どちらを想定していたのでしょうか。男の子と思って読むのと、女の子と思って読むのとでは、印象が変わるのか試してみるのも面白そうです。

いつ飛び出して行ってしまうかわからないような、元気いっぱいで、少し危なっかしい子と、ちゅうちゅうの姿が重なり、おとなも子どもと一緒に楽しめる一冊です。

美しい機関車の描写、びゅんびゅんと風を切るスピード感、激しい高揚感と、たどり着いた寂寞(せきばく)の風景との対比、それを声に出して読み聞かせてあげることで、ずっと子どもの心に残るコミュニケーションを生み出してくれる絵本です。

01_06

01_07
▲モノトーンのイラストが、石炭と黒煙のイメージにピッタリ。疾走感のあるこの見開きページが、幼い私のお気に入りでした。※写真は日本語版(上)と英語版(下)。


あらすじとかいせつ

あなたは、大切で大切でしかたない、やんちゃで小さな子に、寿命が縮まるほどの心配をさせられたとき、どんな反応をするでしょうか?

たたきますか?
怒鳴りますか?
泣きますか?
それとも、抱きしめますか?

・・・・・・・・・・

あるところに、真っ黒くて、ぴかぴか光っていて、きれいなかわいい機関車がありました。名前をちゅうちゅうといいました。ちゅうちゅうはいつも客車や、貨車を引いて、駅から駅へ走る生活を送っていました。

01_02
▲きれいなちゅうちゅうの姿です。幼いころ、このページを見るたびに惚れ惚れしていました。

ちゅうちゅうは、自信たっぷりの美しい機関車でした。毎日毎日、みんなのために一生懸命はたらいていました。ちゅうちゅうの働く姿は、きらきら輝いていて、みんな羨望のまなざしで見つめていました。

01_05
▲駅から駅へ、まちからまちへ旅をするちゅうちゅうの様子がわかります。毎日、いろいろなところに行けるちゅうちゅうが、うらやましく感じられました。

それでも、もっともっときれいで、かっこうよく、速く速く走れることを、証明してみたくなります。

ある日、ちゅうちゅうは考えました。
「あの重い客車なんか引くのはごめんだ、わたしひとりならもっともっと速く走れるんだ。そしたらみんなわたしだけをながめて言うでしょう、かわいい、はやい、きれいな機関車だと。」

そして、ちゅうちゅうはひとりで走りだし、大騒動に・・・。

01_03
▲迷惑をかけられた人や動物たちが、指をさしたり、しっぽをさしたり全身で新型の列車にちゅうちゅうの行方を教えます。新型列車がとても頼もしく見えたものです。

ちゅうちゅうは、たくさんたくさん心配をかけ、たくさんたくさん迷惑をかけ、思いっきり走って走って走り続けました。

そして、とうとう動けなくなって、ひとりぼっちになってしまったとき、いつも自分のことを大切にしてくれていた仲間たちが、必死になって迎えに来てくれます。

01_04
▲物語でずっと続く疾走感とは対照的に、心細いちゅうちゅうの心をあらわして、木がおばけのように恐ろしく見えます。やっと迎えに来てくれて、疲れきって安心して、よわよわしく返事をするシーンは、なんとも印象的です。

ものすごい勢いで疾走するちゅうちゅうを、モノトーンの絵と、擬音語たっぷりのコトバたちが、どきどき、わくわく、ちょっぴりこわくて、最後にはホっとする、そんな臨場感が鮮やかに描き出されています。

01_08

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SHARE ON!

kaku-kaku lab

 kaku-kaku lab. カクカク・ラボ

ホームページ

鹿毛泰成と国重あさにより2014年に結成。建築設計、家具やプロダクトのデザイン活動のほか、絵本の収集や創作、絵本やこども向け展覧会のレポートなど多岐に渡り活動中。
また、2009年から取り組むkoeda plus projectでは主催者の一員として、建築やまちづくりなど専門を活かして活動を継続中。まちや里山、小学校を舞台にして、その土地の素材を使い、「手をうごかすこと、モノをつくることは楽しい!」をテーマに、子どもと一緒に参加できる、モノづくりや環境教育のワークショップを企画・運営。地域の生涯学習・環境学習ツールとして、樹木調査の実施、tree-tagの作成・設置なども行う。執筆記事はこちら
TOP